1000字でわかる電波ソング

4月に発行されたはずの部誌に寄稿したものをここで公開

部誌のテーマが「音楽」だったんで電波ソングについて書きました。
まあ、オタク向けの文章じゃないのであしからず。



電波ソング」なんて言葉初めて聞いた、って人はまずニコニコ動画のアカウントを取ってタグ検索して人気のありそうなものを試聴すべし。話はそこからだ。

 「一度聴いたら忘れられない」という意味不明な定義がなされたこの音楽ジャンル。意味不明であるがゆえに大多数には理解されず、しかし、一部にはコアなファンが存在している。また、コアではないファンですらオタクコミュニティの中でも多数とは言えず、半ばネタ的扱いに止まる。これは電波ソングの性質上、仕方のないことだ。つまり「恥ずかしい」音楽なのである。

 電波ソングでは女性がアニメ声・萌え声で歌う場合が多いが、そんな歌を聴いてると周りに知れたら気恥ずかしい。『もえたん』のカバーを裏返して装着すると、普通の単語帳のようなデザインで、『もえたん』であることを隠せる仕様であったことを思い出してほしい。萌えというのはそれを享受していることがバレると恥ずかしいものだ。たびたび「萌えソン」とも呼ばれる電波ソングにおいても同様なのである。

 また歌詞も恥ずかしい。カ○ラックさんに配慮してタイトルだけ引用すると、「ふわっFUワッホー☆メイプルまじっく!!」だとか「生意気☆いちごミルクDAYO!!」(いずれもあべにゅうぷろじぇくと)など。たぶんここから察していただけると思う。「あなたが大好きなのっ☆」、「胸がくるしくなっちゃう」といった身体の奥がむずがゆくなってくるような歌詞100%なのだ。萌え声ならば倍増である。

 これらの二重の「恥ずかしさ」によってもたらされるのが「どきわく感」である。羞恥によるマゾヒスティックでナルシスティックな昂揚感は電波ソング特有といえるだろう。さらに、高速のテンポ、キラキラとした電子音もどきわく感を演出する。

 合いの手。これを忘れては電波ソングを語ったことにはならない。「キュンキュン!!」「ハイ!ハイ!!」といった嬌声の組み込みである。電波ソングをカラオケで歌うと分かるが、合いの手まで歌おうとすると息継ぎの暇がなくなる。この現象は翻って聞いている側にも同様で、萌えボイス・電子音が息をつく暇もなく次々と襲いかかって、こちらにまるで思考の隙を与えない。昂揚に次ぐ昂揚の強襲は、どこか狂気に満ちた「躁」の音楽とも言える。ひとたび再生したなら、沈んだ気持ちも脳みそを溶かしながら無理やり最高潮まで連れていかされる。そんな麻薬のような音楽が電波ソングなのである。